意 見
1 本市の国民健康保険事業等の概要
本市の国民健康保険事業は、国民健康保険法(昭和33年法律第192号。以下「法」という。)に基づき、公的医療保険制度の基盤である地域保険として、長年にわたり市民の健康の保持及び増進に重要な役割を果たしてきた。
この事業は、被保険者の保険料と国及び県の支出金とを主たる財源として、地方自治法(昭和22年法律第67号)第209条第2項及び法第10条の規定により国民健康保険特別会計を設け、保険給付等に関する収支について、一般会計と区分して経理している。
近年、国民健康保険は、被保険者の高齢化や医療機関の充実等に伴い保険給付費が増大し、また、低所得者が多く加入していることから、その財政状況は非常に厳しいものとなっている。
特に、本市の国民健康保険事業は、被保険者一人当たりの医療費が政令指定都市の中で最も高く、一人当たりの医療給付費は、全国平均の1.24倍という状況にあり、政令指定都市で唯一、医療費が著しく高い市として厚生労働大臣の指定を受けている。
このような状況の中、国民健康保険事業の健全な運営を図りつつ、保険料の上昇を抑制するため、毎年、一般会計から多額の繰入れを行っている。
また、低所得世帯に対する保険料の軽減や、災害その他特別な理由により保険料の納付が困難となった世帯への保険料の減免など、世帯の実情に即した措置を講ずることにより、保険料の負担軽減を図っている。
さらに、被保険者が保険医療機関等で支払う一部負担金についても、平成18年4月に北九州市国民健康保険一部負担金の減免及び徴収猶予に関する取扱要綱(以下「取扱要綱」という。)を定め、一部負担金の減免を実施している。加えて、医療費支給制度として、重度障害者、乳幼児、ひとり親家庭等を対象に一部負担金を助成する制度を設けているところである。
2 直接請求の内容
今回の請求に係る条例案(以下「条例案」という。)による改正の内容は、まず、北九州市国民健康保険条例(昭和42年北九州市条例第53号。以下「国保条例」という。)第1条に「この条例は、国民健康保険事業の健全な運営を確保し、もって市民の社会保障及び国民保健の向上に寄与することを目的とする。」と規定するというものである。
次に、一部負担金の減免等の基準を見直すというものである(第6条の2を追加)。
さらに、保険料について、減免の基準を見直すこと(第25条に1号追加)及び賦課総額(一般被保険者に係る医療分)を引き下げること(付則第15項を追加)というものである。
3 目的規定の追加について
国民健康保険事業については、国民皆保険の中核となる公的医療保険制度として、国が法及び国民健康保険法施行令(昭和33年政令第362号。以下「政令」という。)で目的、保険者、被保険者、保険給付、保険料等に関する基本的事項を定め、市町村は法及び政令による委任事項その他その地域の実情を反映することが適当な事項について条例で定めることとされており、これらすべてが一体となって適用され、運営されるものである。
法第1条で「この法律は、国民健康保険事業の健全な運営を確保し、もつて社会保障及び国民保健の向上に寄与することを目的とする。」と規定されており、また、現行国保条例第1条には「市が行う国民健康保険については、法令に定めがあるもののほか、この条例に定めるところによる。」と規定している。
このように、法、政令、条例等が一体となって適用され、運営される以上、法に規定されていることを重ねて条例に規定する必要はない。
4 一部負担金の減免基準の見直しについて
一部負担金は、乱診乱療を防止し、保険財政の負担を軽減するとともに、保険給付を受ける被保険者と健康な被保険者との公平を図るため、法第42条第1項の規定により、原則として医療費の3割を被保険者が負担することとされている。また、法第57条の2の規定により、入院等で一部負担金が著しく高額になった場合でも被保険者の負担が一定限度を超えないよう、高額療養費制度が設けられている。
一方、特別の理由があって一部負担金の支払が困難となった場合は、法第44条の規定により、保険者は一部負担金の減免を行うことができるとされている。そこで、本市では、取扱要綱に基づき、災害その他特別の理由により生活が著しく困難になり、一部負担金の支払ができないと認めた場合は、申請により一部負担金を減免する制度を運用している。
取扱要綱では、減免事由を常態的な低所得ではなく、特別の理由による収入等の減少としており、認定要件を3割以上の収入等の減少が見込まれることとしている。
これは、公的医療保険制度では、一部負担金を負担することが基本であること、また、一部負担金の減免額が多額になれば被保険者の保険料額へ影響することから、安易な運用にはなじまないからである。
したがって、現時点では国保条例を改正する必要性はないと考えているが、現在、国において統一的な運用基準の検討がなされているところであり、引き続きその動向を注視したい。
5 保険料の減免基準の見直しについて
所得が一定基準以下の低所得世帯については、政令や国保条例に基づき保険料の応益割額の7割、5割又は2割を軽減する制度があり、負担の軽減がなされている。
この軽減後の保険料について、さらに、所得が前年に比べて著しく減少した場合や災害その他特別の理由により生活が著しく困難になった場合には、他都市と同様に、保険料の減免を行っている。
また、平成20年度から少子化対策の一環として、他都市に例がない、18歳未満の子が2人以上いる世帯の保険料を減免する多子減免制度を導入した。
保険料の減免制度は、個々特別の事由により適用するものであり、条例案の生活保護基準額に100分の120を乗じて得た額以下の収入という一律の基準により保険料を減免することは、減免制度の趣旨になじまない。
また、保険料の減免により不足する財源を一般会計からの繰入金に求めることは、必要な経費は保険料と国及び県の支出金とで賄うという国民健康保険制度の原則から逸脱することとなる。
なお、本年4月から、解雇等による非自発的失業者について、届出により、前年の給与所得をその3割として保険料を算定する制度を設けたところである。
6 保険料の賦課総額の引下げについて
(1) 保険料水準と一般会計繰入金について
被保険者の保険料の負担を軽減するため、政令指定都市の中でも財政力が弱い本市の厳しい財政状況の中、毎年、政令指定都市の中でも上位の多額の一般会計からの繰入れを行うことにより、保険料賦課総額を抑制してきた。
条例案どおりに保険料賦課総額(一般被保険者に係る医療分。以下同じ。)を1世帯当たり3万円引き下げる場合、保険給付費を賄うため、一般会計からの繰入金を約39億円増額しなければならない。
一般会計からの繰入金を増額することは、必要な費用を保険料と国及び県の支出金とで賄うという国民健康保険制度の原則から大きく逸脱するとともに、本市の厳しい財政状況からも極めて困難である。
(2) 保険給付費の計上と剰余金の活用について
平成20年度の保険給付費は約63億円(一般被保険者分)の不用額が生じたものであるが、これは、平成20年度からの国の医療制度改革により年齢区分による給付割合や費用負担の仕組みに改正があり、過去の実績による見積りができず、国が示した係数により積算した結果によるものである。
一方、平成20年度決算においては、保険給付費の減少に連動して国及び県の支出金等が減少した一方、前期高齢者交付金の超過交付があったため、単年度収支は約33億円の黒字となり、平成19年度までの累積額と合わせ約68億円の剰余金となった。
この剰余金約68億円については、既に、前期高齢者交付金の超過交付の精算分等として約43億円を予算計上しており、これらを差し引いた残額は約25億円となる。
被保険者の疾病や負傷等に対する保険給付費は毎月60億円を超えており、疾病の流行によってさらに膨らむことも十分考えられる。
保険者として、このような不測の事態においても、確実に給付を行い、また、国民健康保険事業の安定的な運営を図るため、一定の剰余金を確保することが必要である。
7 結論
保険料賦課総額の1世帯当たり3万円の引下げや保険料減免基準の改正を実施するとなると、新たに39億円を超える一般会計からの繰入れが必要となる。
これを平成22年度予算の一般会計繰入金約106億円と合わせると、145億円を超える額となり、必要な費用を保険料と国及び県の支出金とで賄うという国民健康保険制度の原則から大きく逸脱するとともに、本市の厳しい財政状況からも極めて困難である。
以上の理由により、条例案には反対である。
なお、本市としては、今後とも、国民健康保険事業の健全な運営に努めることはもとより、現在、国において国民健康保険制度の改正が検討されていることを踏まえ、長期的に安定した制度となるよう、国に強く要望するとともに、保険料の負担軽減についても努力していく所存である。