2008年1月23日

市民発!地域福祉ネットワークシンポジウム 基調講演

「いのちをつなぐネットワーク 〜社会福祉協議会への期待〜」
        
北九州市長 北橋健治

■はじめに

本日は、「社会福祉法人・北九州市社会福祉協議会、各校区社会福祉協議会」主催の「平成19年度 校区・地区社協活動者交流会」で、基調講演の場を設けていただき、ありがとうございます。
本年度の交流会のテーマは、「地域福祉のネットワーク」と伺い、まさに、今、保健福祉行政の要点をとらえられたテーマであり、平成20年度の保健福祉行政の重要課題の一つであります「いのちをつなぐネットワーク構築事業」について、さらに、この事業の中心的役割の一端を担っていただき、ネットワークのさらなる充実、強化を図ることに欠かすことのできない地域福祉活動にご尽力いただいております社会福祉協議会の皆様に期待いたしますことについて、お話をさせていただきます。

現在、平成20年度の予算編成作業中であり、生活保護関連で発生した八幡東区、門司区、小倉北区の孤独死の反省を踏まえて、「いのちをつなぐネットワーク構築」にかかる予算を検討しています。今、その内容につきまして、最後の精査をしながら議論を深めているところではありますが、基本的には行政の世界だけで、こういう地域福祉のネットワークをつくることは困難です。

現に地域では、校区・地区社会福祉協議会や福祉協力員の皆さん、また、民生委員・児童委員、自治会、地域住民の皆さんなど、多くの方々の協力によって、見守りのネットワークがあり、ご尽力をいただいております。
先日は、若松区におきまして、養護老人ホームに入所の方が散歩に出たまま行方が分からなくなり、関係の方々に捜索や目撃情報の提供をお願いし、無事、翌日に発見されるという事例がありました。これも地域のネットワークを活用し、行政だけでなく福祉協力員、民生委員・児童委員の方々をはじめ、近隣の住民、商店、施設、団体など幅広いご協力があったからこその結果だと思います。

しかし、現実として、先ほどご説明しましたように孤独死が続発をしたということについて、やはり市としましても、重く受け止めております。さらに、昨年12月20日に出された、北九州市生活保護行政検証委員会の最終報告書にも、孤独死防止に向けて、
○「孤独死対策に関する全庁的な連絡調整組織の構築」や
○「地域活動において核となる要員の確保」、さらに
○「将来的には、地域包括支援センターや市民センターの活用」
というご提言をいただいており、この提言等を踏まえまして、今後の保健福祉行政の指針を12月25日に発表させていただきました。

孤独死に関する今後の方針としまして、市民が家族や地域から孤立し、様々な制度やサービスを受けられない状態で死に至ることがないよう、“全てのいのちを大切にする”という強い信念のもと、地域を支援する新しい仕組み『いのちをつなぐネットワーク』の構築を平成20年度から進めて参ります。

それでは、具体的に『いのちをつなぐネットワーク』について、ご説明させていただきます。

◆これまでの地域福祉活動について

■三層構造による地域福祉のネットワークづくり

保健福祉局の担当する業務は、国民健康保険や介護保険などの公的な「保険」や、皆さんの健康を保つ「保健」、法律に基づく補助、措置など法令等で定められている事務がほとんどです。しかし、本市では、全国平均を上回る速さで進む高齢化に対応し、きたる21世紀の超高齢社会に向けて、市民一人ひとりが人間として尊重され、高齢者だけでなく若者も含めた、全ての人々に魅力ある「高齢化社会のモデル都市」を実現すべく、平成5年から『小学校区・行政区・市レベルの「三層構造による地域福祉のネットワーク」』づくりに取り組んできました。
市民をたらい回しにしない高齢者の総合相談窓口として「年長者相談コーナー」を設置したり、保健所と福祉事務所を統合して「保健福祉センター」を設置し、また、保健局と民生局を一つにした「保健福祉局」の設置など、既存の縦割行政にとらわれない全国に先駆けた取り組みを進めてきました。

■介護保険制度の導入

平成12年4月に介護保険制度が導入されたあとは、それまでの福祉サービスが「措置」からサービス提供者との「契約」になり、「高齢者やその家族等に対する相談支援、地域のコーディネーターの役割をもつ在宅介護支援センター』」を設置することになりました。
このセンターは、市基幹型を除き、全て民間委託したことにより、保健福祉行政は地域への関りが希薄となり、結果として、保健福祉各制度・サービスに該当しない人や地域のことは社会福祉協議会の皆さんや民生委員さん等の活動に任せてしまう状態になりました。このとき、「三層構造による地域福祉のネットワーク」は、構築する道半ばであり、結果、地域レベルでの見守り・支援体制の確立が未完成のまま現在に至っている状況です。

■地域包括支援センターの活用

この地域への関りの希薄化を招いたことを反省し、平成18年4月に施行された改正介護保険法で導入された「地域包括支援センター」は、直営とし、現在、この「地域包括支援センター」において保健福祉サービスが受けられない人も含めた地域づくりを行おうとしているところであり、相談に来られた人や、地域の見守り支援者達からも行政の地域づくりへの積極的な関わりを求める声が大きくなっています。

■近年の社会状況等

また、近年、家族や地域における支えあい機能の低下やコミュニケーションの希薄化などの要因により、家族や地域から孤立した世帯の増加や、さらに、見守り活動を行う人材の確保が困難な地域も見受けられ、社会問題化しています。そのような中、本市においても、先ほどお話しました生活保護に関係した、家族や社会から孤立した状態での孤独死がマスコミ等で報道され、市民に身近なところで生じている問題として表面化しました。

■「(仮称)コミュニティソーシャルワーカー」の配置

このような悲しい出来事を防ぎ、市民が家族や地域から孤立し、様々な制度やサービスを受けられない状態で死に至ることがないようにするためには、やはり「地域での見守り・支援体制」を確立しなければなりません。

そのためには、行政が今一度、地域の中に入り込み、福祉に関する弱者対策、つまり、地域福祉の面からの地域づくりを地域の皆さんと協働で構築し、「地域の課題を地域で解決する」という、「三層構造による地域福祉のネットワーク」を完成させなければならないと考えています。


以上のことから、地域福祉に関して「地域の課題を地域で解決する」真の「地域づくり」が完成できるよう地域を支援する行政職員を「仮称・コミュニティソーシャルワーカー(CSW)」として、配置することを検討しています。

「仮称・コミュニティソーシャルワーカー(CSW)」とは、ちょっと、耳慣れない言葉ですので、今後、市民の皆さんに分かりやすい、親しまれる名称にしていかなければなりませんが、今は言葉として「地域福祉推進員」や「見守り推進員」などを連想していただければと思います。


「(仮称)コミュニティソーシャルワーカー(CSW)」の役割
この「仮称・コミュニティソーシャルワーカー(CSW)」の役割は、大きく二つあります。

一つは、先ほど申しましたように、地域福祉の面からの地域づくりを地域の皆さんと協働で構築し、地域福祉のネットワークを強化・充実する役割、ともう一つは、支援を必要とする方々に対する「見守り・発見・相談・サービスへのつなぎ」などの機能を担う役割です。

つまり、

■地域福祉のネットワークが弱まっている地域、地域活動が停滞している地域については、「仮称・コミュニティソーシャルワーカー(CSW)」が積極的に地域と協働し、支援が必要な方の見守り体制を構築するとともに、
個々のハイリスク者の見守り体制(仮称・いのちネット会議チーム)の構築の支援を通じて、地域のネットワークを強化・充実させ、地域間の格差を解消していきます。

「仮称・コミュニティソーシャルワーカー(CSW)」は、単なる相談・申請窓口ではなく、ハイリスク者の地域生活を管理する調整の役割をはたし、サービスの対象とならない場合でも、行政内部の連携を図り、何らかの支援が必要な人に対しては、地域での見守り体制を構築し、継続してフォローしていきます。さらに、「仮称・コミュニティソーシャルワーカー(CSW)」は、見守り支援の行政窓口の担当者として地域と協働することりより、福祉協力員さんや民生委員さん、自治会の皆さんほかの活動に対する不安感や負担感などを軽減する役割を果たすことになります。

「仮称・コミュニティソーシャルワーカー(CSW)」は、必要に応じて地域に出向き、地域の情報を収集し、また行政の情報も提供していく中、地域の課題を発見し、住民の皆さんとともに解決していくプロセスを通じて、地域コミュニティ力を再生・強化の支援をしていきます。

具体的に、「仮称・コミュニティソーシャルワーカー(CSW)」が地域の皆さんと協働で行う見守りについて、今、検討していることをお話させていただきます。


■現状の一例として、

○支援を必要とするハイリスク者がいますが、区役所の福祉サー ビス等の対象外であり、
○家族・親族からの支援は少なく、地域住民の見守り活動も停滞気味で、
○福祉協力員さんや民生委員さんが見守り活動を行っているとします。

■従来の見守りで、活動が次第に低下すると仮定した場合ですが、

○家族事情等により支援が途切れ、地域住民の見守りも途切れます。
○福祉協力員さんや民生委員さんも、何らかの理由で見守り活動が停滞・途切れ、区役所への情報もなくなり、最悪の場合、悲しい出来事の発生へとなることが予想されます。
■一方、「仮称・コミュニティソーシャルワーカー(CSW)」を配置した場合ですが、

○当初は、「仮称・コミュニティソーシャルワーカー(CSW)」が調整役となり、ハイリスク者の地域を担当している福祉協 力員さんや民生委員さん、地域の方々、家族、ボランティア等と協働して、「いのちネットチーム」を立ち上げ、このハイリスク者をどのように見守るか「いのちをつなぐネットワーク会議」を開催し、見守り台帳(いのちをつなぐネットワーク台帳)を整備して、しっかり見守り体制を図りたいと考えています。
○これは、ハイリスク者ごとに「いのちネットチーム」を立ち上げ、会議を開催し、台帳を整備していくことになります。

「いのちをつなぐネットワーク」で、最終的に目指すべき地域の姿としては、引きこもりや一人暮らし、その他孤独感や不安感を抱えている人などが、地域の活動拠点であります市民センター等に集い、福祉協力員や民生委員・児童委員、地域住民などの方々と一緒に語らい、現状を解決し、地域の一員として、その人らしく生活していける、「地域の課題を地域で解決する」環境が整備されることと考えております。そして、このことにより、真の「三層構造による地域福祉のネットワーク」が完成されると確信しております。


【7 いのちネットのキーパーソン】

以上、「いのちをつなぐネットワーク」についてご説明してまいりましたが、このネットワークを確実なものにしていくには、私ども行政の力だけでは難しく、市民の皆様と一緒になって、一つひとつ課題を解決していかなければなりません。

一つひとつの課題を解決していくためには、これからは“人”が重要になってきます。私が、一昨年10月に掲げた「ハートフル政策大綱」にも1番目に“人”への投資を掲げています。「ハードからハートフルへ」です。

それでは、「いのちをつなぐネットワーク」のキーパーソンは、誰になるでしょうか?

「いのちをつなぐネットワーク」を支え、活動するのは行政のほか全ての地域住民だと思っています。しかし、地域住民の中でも、地域福祉の向上のため一定の役割をもつことを既に了解され、活動を行っている方がいらっしゃいます。皆様方、社会福祉協議会の活動者の皆様や民生委員さん、ボランティアの皆様です。

「いのちをつなぐネットワーク」を進める上で、私は社会福祉協議会の「ふれあいネットワーク事業」に非常に注目しています。

民生委員さんと協力して6,700人を超える社会福祉協議会の福祉協力員さんが見守り活動を行っていると聞いています。

助け合い活動では、ゴミ出しや話し相手など日常のこまごまとしたこと、しかし、一人暮らしの高齢者や障害のある人にとって、なくてはならない活動が行われていること、これらの活動のために市民センターなどに集まり、熱心に自分達のまちのために話し合いが行われていることも聞いています。


【8 ある高齢者のケース】

しかし、見守り活動、助け合い活動と一口に言っても、そこには様々なご苦労があることを先日、お聞きしました。

アパートでお一人暮らしの78歳の女性のお話です。
もともと明るい性格の方だったそうですが、ご主人が亡くなられてから、少しずつ物忘れの症状が出てきたそうです。
社会福祉協議会の福祉協力員さんも、近所の人と協力して声かけをしていたのですが、段々閉じこもりがちになっていったそうです。
ある日、訪ねても応答がないことから、福祉協力員さんが民生委員さんとアパートの管理人にお願いし、鍵を開けたところ、ここ数日間全く食べていないという状況だったそうです。

福祉協力員さんと民生委員さんは、地域包括支援センターに相談にいきました。
地域包括支援センターでは、施設に入所されるほうが良いと判断したのですが、女性は、「このアパートを離れたくない」と何度もおっしゃったそうです。

校区の社会福祉協議会の皆さんや、地域包括支援センターの職員で話し合った結果、「やはりご本人の意思を尊重させよう」と、地域と行政でこの方の支援を続けることになったそうです。

ご存知と思いますが、認知症の方が在宅で暮らしていくためには、いろいろな面で周囲の助けが必要です。親族と関わりがなければなおさらです。

この方の場合は、介護保険サービスや財産の管理が先ず必要でした。通帳がどこにあるのかも分からなかないので食事も取っていませんでした。
財産の管理のために、社会福祉協議会の権利擁護センターのサービスを受けることになりました。

今はホームヘルプサービスも受けているそうですが、福祉協力員の方も訪問されているようです。お仕事で伺うヘルパーさんと違って、福祉協力員さんに訪問いただくと、自分のご近所の方ですから、本人の気持ちも打ち解けるそうです。
おかげで今はこの方も、たいへん朗らかになったそうです。


【9 ふれあいネットワークの意義】

皆さんも、今申し上げたケースに近いことは、ご経験がおありだと思います。それでも、この話を長々といたしましたのは、「福祉協力員さんと民生委員さんが、飲まず食わずのこの女性を発見していただいたことに、市政を預かる者として胸をなでおろし、有り難いと感じ、皆様方にもその活動の大切さを再確認していただきたかったからです。

このように社会福祉協議会に関わる皆様は、数字には表れませんが、大切な活動を、「ハートフルな」活動をされています。


【10 ウェルクラブ】

もう一つ、ふれあいネットワーク事業を活かした活動にウェルクラブというのがありますね。福祉協力員さんと一緒に小学生が高齢者のお宅を訪問したり、施設との交流をしたり、小学生が大人になる20年・30年後を見据えた活動と聞いております。

ウェルクラブ活動で子どもを一人暮らしの高齢者宅に連れて行くと、山坂の多い地域だったので、子どもが真剣に高齢者の買い物の心配をして、大人をびっくりさせたと言う話しも聞きました。

子どもの活動に影響を受け、お父さん・お母さんの中から、福祉協力員になられた方もいらっしゃるそうです。
この活動なども、仕組みを活かし、一人ひとりの思いを次から次につないでいく活動として大切にしていきたいと思います。また、今後ますます活発になるよう応援していきたいと思います。


【11 ボランティア・NPO活動】

「いのちをつなぐネットワーク」の構築にあたっては、それぞれの特技などを活かしてボランティア活動やNPOに関わる人たちのご協力も欠かせません。
この会場にお越しの方の中には、社会福祉協議会のボランティアセンターで活躍されている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
シルバーひまわりサービスほか様々なボランティア活動に参加され、このまちを支えていただいている方々が、もっと活動しやすくなることが大切だと考えています。

そのために、今、北九州市では、市民主体のまちづくりを進め、豊かで安全な地域社会づくりに貢献するNPO・ボランティア活動など多様な市民活動を促進するための効果的な支援策について検討していただくため「市民活動促進検討委員会」を設置しています。

この後のシンポジウムでコメンテーターを努められます、社会福祉ボランティア大学校の山ア校長先生を中心に議論をしていただいておりますが、社会福祉協議会のボランティア実践者の声として、ご意見やご要望をお寄せいただければ、一層「ハートフル」なまちになるのではないでしょうか。

皆様の活動に心から感謝しますとともに、今後のご活躍に期待しております。

以上で「いのちをつなぐネットワーク 社会福祉協議会への期待」について講演を終わらせていただきます。

「いのちをつなぐネットワーク」は、今日お話しした市民の皆様による様々な普段の活動を土台にして、構築していくものと考えています。

地域福祉の第一線でご活躍いただきます社会福祉協議会の皆様には、「いのちをつなぐネットワーク」構築にもご理解、ご協力をいただきますとともに、今後とも地域福祉活動のさらなる向上にご尽力をいただきますようお願い申し上げます。交流会を主催いただきました「社会福祉法人・北九州市社会福祉協議会様、各区社会福祉協議会様」の益々のご発展を祈念して、講演を終了させていただきます。
ご清聴ありがとうございました。